【造形芸術科の授業紹介⑦】「素描C」
実施学年:造形芸術科3年生(選択科目)
担当教員:造形芸術科 上村 あゆみ
素描Cは、構成デッサンを学ぶ授業です。
構成デッサンとは、純粋な机上での静物デッサンや卓上デッサンの発展形であり、難易度の非常に高いデッサンです。
この単元の面白いところは、同じ課題文を解いても個人が叩き出す解答性に本当に様々な着地や表現が出てしまう点です。
それは、考え方も、解釈も、思考回路も、人によって大きく異なることが、「構成して描く」を通して作品に顕著に現れるためです。
白~黒までのトーン幅を使うだけのデッサンなのに、鮮やかな色がついた絵画のようだったり、数秒前後が感じ取れる物語画や、漫画のようなストーリーものだったり、瞬間的切り取りによりあたかも写真のようだったり、ピントが合ったりぼけたり映像のようだったり…。
“どんなバックグラウンドをもった、どこの誰が”という情報が1枚の作品からふんだんに溢れ出る、そんな唯一無二のデッサンが出来あがります。
複数あるデッサン形態の中で、最も“人間”の思考回路の面白さ、またその多様性を感じる領域ではないでしょうか。
お題への解釈や「何をもって解答とするのか」は違えど、どんな構成デッサンにも共通するのは、「“自分だけ”が描ける」「1枚絵に個人のバックグラウンドや内面、視点が如実に出る」「1枚の絵で他者に“自分とは…”が克明に伝わってしまう」そんな面白さを秘めています。
【概要】
“構成”とは、表面的な要素のバランス等の話ではなく作品の中にルールや秩序をつくり、自分のモノの捉え方や着眼点を論理的に説明する“組み立て方”のことを言います。一貫性の持たせ方ですね。
英語の構文、日本語の構文に違いがあるように、アートやデザインの領域にも構文がある、そんなニュアンスで捉えて頂けたらと思います。
対象物を捉え、「描き表現しきる」行為は、最終的にどんな分野にもつながって来ます。
数学における定義、理科における定理、言語による文法といった、様々な学問にあるルール。作品の中にもあるその仕組みの部分を他者視点を借りて学びつつ、その人にしかない組み立て方や長所の引き出し方に気づいていきます。絵作りの骨格からオリジナリティを伴っていい自由度の高い分野ですね。
素描Cとその他の素描との違いを言いますと、
素描Cでは、思考力や言葉ではない作品を通し、言葉やイメージを“伝え合う”ことに念頭を置いています。

そのために、理論による座学からコミュニケーション活動を盛んに行い、小論文や対話など様々なアプローチを通し、インプットとアウトプットの両側面から自分の核を作っていきます。また、生徒同士による講評を実施し、他者と自分の境界線を常に意識しながら「主観」と同様に「客観力」を磨いています。そうすることで指導者の型に染まることなく、自分自身の決断や判断に自信がもてるようになるのです。

自分の作品にはもちろん、他人の作品へも妥協せずに意見を持てることは一見容易ですが実際に体験してみるともどかしさをも伴います。

素描Cを受講する高校3年生は、これから学校を出て社会の中でも芸術活動を継続しながら、社会でも通用する技術を磨き続ける道を歩む者が大半を占めます。
いち学校の授業の枠にとどまらず、今後の芸術シーンにおいて最大重要になってくる自分軸を打っ立てていってほしいですね。
【まなびの過程】
★1学期
・完全な理論と実践による基礎的なデッサン力
・初心へ立ち返っての“空間”への理解
・構成表現のための考え方、ネタだし、着眼点について
★2学期
・構成デッサンにおいて必須の空間表現
・複合形態と塊についての座学
・距離の表現~光から、自分から~
「世界観、絵力、画力、描写力、観察力」といった
美術進路における本場、藝大・美大の入試で頻出の単語を噛み砕き
どう要点を踏まえた解答をするのか実践的に考えながら学んでいきます。
★3学期
作品としての
『自分の長所の自覚と発揮』『作品に説得力をもたせる』
超情報化社会の中、すぐに答えに辿り着くことが主流となり、情報は常に過剰に華やかで、且つ一瞬のうちに消費されてしまう昨今。この流れはいつまで続くのか分かりません。
そんな流れの中、複雑で繊細でユニークな個人の思想や感性に焦点を充て、己の内に潜む審美眼を深く探っていく授業です。
考えることが好き、考え続けられる、そんな自分を好きになる、自己肯定力の高まる1年になることでしょう。
